3色パステルアートの技法を用いて絵を描くことが、脳に与える影響を調査するために脳波測定を行いました。

この測定調査は3色パステルアートによる創作活動が、ストレス状態であるβ波を減少させ、深いリラックス状態であり、記憶力を高める脳波であるθ波を増加させる効果があるか否かを検証するためのものです。

2016年11月〜2017年5月にかけてデータ収集、解析作業を行いました。
その測定結果をまとめましたのでご報告いたします。

 

脳波について

 

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θ波(シータは)の役割

(1)記憶力を高める

θ波は海馬で発生する脳波です。θ波は常に出ているわけではありません。
出ているときと出ていないときがあり、人によってその量も異なります。

以下のウサギの実験は、θ波と記憶の関係性を証明したものです。

ウサギにブザー音を聞かせ、その直後に目に空気をふきかけます。
目に空気をふきかけられたウサギは、驚いて目を閉じます。

『 ブザー音 → 空気 → 目を閉じる』
『 ブザー音 → 空気 → 目を閉じる』
『 ブザー音 → 空気 → 目を閉じる』

これを200〜300回繰り返すと、ウサギは『 ブザー音 → 空気 』という流れを学習し、ブザー音だけで目を閉じるようになります。

これは、θ波が出やすい若いウサギ(人間で18歳相当)の場合の回数です。
θ波が出にくい大人のウサギは、『 ブザー音 → 空気 』の流れを学習するのに、800回も繰り返し訓練する必要がありました。

高齢化とともに、θ波は出にくくなる傾向があります。

一方で若いうさぎと同等のθ波が出ている大人のウサギは、若いウサギと同じ200~300回の訓練で、『 ブザー音 → 空気 』の流れを学習することに成功したという結果が出ています。

このように、θ波の有無によって記憶力に数倍違いが出てきます。


(2)睡眠時のような深いリラックス状態が得られる

本来θ波は入眠時や浅い睡眠時(レム睡眠)に多く出る脳波です。
日中起きている状態でθ波が出ているということは、ストレスや緊張状態から解放され、睡眠時と同等のリラックス状態が得られているということです。

乳幼児が大人より多くの睡眠を必要とするのは、短い期間に大量の情報を記憶するためです。
θ波が出る時間(=睡眠時間)を多くとることで、運動能力や言語能力などを数年で習得することができるのです。

 

(3)ストレスをためにくい脳になる

記憶を定着させるためには、海馬に同じ刺激を何度も与え脳神経同士の結びつきを強める必要があります。この働きをLTP(=Long Term Potentitation)と言います。

θ波にはこのLTPを起こりやすくする働きもあります。

嫌なことがあったとき、考えすぎて眠れなくなることはありませんか。
睡眠不足の状態ではθ波も不足し、LTPが起こりにくくなります。

LTPは記憶の定着だけでなく、記憶の整理も行なっています。
記憶が整理されないままでいると、同じことを何度も何度も思い出してしまいます。

「時間が解決してくれる」という言葉がありますが、
これは忘れてしまったのではなく、時間の経過とともに記憶が整理され、“必要なときだけ思い出せる”という状態。

必要なときに必要な情報を取り出し、不要なときは閉まっておくことができる。
これがストレスをためにくい健全な脳の状態です。

 

3色パステルアートと脳波の検証結果

 


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7割以上の人の脳でβ波の減少を確認

3色パステルアート実施前と、実施中のβ波量を比較。
参加者のうち7割以上の人の脳でβ波が減少していることが分かりました。

3色パステルアートで創作活動を行うことによって、ストレスや緊張状態が緩和されたと言えます。

 

9割以上の人の脳でθ波の増加を確認

3色パステルアート実施前と、実施中のθ波量を比較。
参加者のうち9割以上の人の脳でθ波が増加していることが分かりました。

最も変化が大きかった人のθ派は、開始前の14.7%から74.7%に上昇。
それに伴ってβ波が開始前の20.0%から1.3%に減少しました。(下図参照)

 

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3色パステルアートでの創作活動を行うことで、緊張状態がほぐれ深いリラックス状態へ移行、集中力と記憶力が発揮しやすい最適な状態となることが分かりました。

 

絵が苦手でも初体験でも同じ結果に

今回の検証結果からは、
・絵を描くことに対する苦手意識の有無
・3色パステルアート経験の有無
の相違はみられませんでした。

「絵にコンプレックスがあり苦手だと」と主張する人も、「絵は好きでよく描いています」と言う人でも同じ効果が得られました。

3色パステルアートの経験の有無も同様です。
β波の減少とθ波の増加に相違関係はなく、3色パステルアートが初体験の人でもβ波が減少し、θ波が増加するという結果でした。

 

具象画よりも有効な抽象画

3色パステルアートを経験したことがある被験者に対しては、抽象画と具象画の合計2枚を描いてもらいました。
下のグラフは具象画(風景画)を描いている時と、抽象画を描いている時の脳波状態を比較したものです。

※画像をクリックするとグラフが拡大されます

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抽象画の方がより多くθ波が出ていることが分かります。
これは、3色パステルアートの抽象画表現において特徴的ななグラデーションを描くこと、形があるものではなく、曖昧で形の決まっていないものを描くことが起因していると考えられます。

はっきりとした境界線のないグラデーションを描いている時、人の脳では論理的思考が働きにくくなります。境界線のない曖昧なものを捉えようとすることで、論理思考が低下しより深いリラックス状態を作ることができます。

また、正解がない抽象画表現の世界では、「上手か下手か」というプレッシャーから解放されやすいことも、緊張状態がほぐれ(=β波が減少)、深いリラックス状態(=θ波が増加)を作り出す一因となります。

 

3色パステルアートで楽しみながら脳を活性化

今回の調査結果から、3色パステルアートによる創作活動によって、β波が減少し、θ波が増加する。ということが実証されました。

θ波の働きによって深いリラックス状態を作り、記憶力を高めることができます。

難しかったり、退屈だったりするトレーニングを繰り返すよりも、楽しく絵を描きながら脳を活性化させてみませんか。

 

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(参考文献:ブロードマンの脳地図ブロードマン36野 - 海馬傍回のうち海馬傍回皮質 脳科学事典/進化しすぎた脳 池谷裕二 講談社/別冊Newtonムック脳と心~心はどこにあるのか~/知的生産力を上げる技術 志賀一雅 三笠書房)

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